市場価格はあたかも活きているかのごとく、目まぐるしく動いてしまう。つい先刻20万円だったから今もそれで買えると思うと、大きな間違いを犯すことになる。まださほど時間が経過していなくとも、値段の方がロケットのように上昇した例も珍しくない。 逆にかなり纏まった数量が発見され、市場価格が急降下という例もあった。近年でもシラクサのデカドラクマ銀貨、ダンツィヒの1930年の25グルデン金貨、仏領インドシナの1890年のピアストル銀貨などは、発掘されたり隠してあったものが発見されたりで、たちどころに値が動いたのだ。 ダンツィヒの25グルデン金貨は、カタログ価格が9000ドルで市場価格が120万円ぐらいのとき、一挙に30万円見当にまで下落してしまった。このケースでもカタログ価格は、修正など全く不可能であった。 逆のケースはロシアや中国のコインで、カタログ価格は完全に過去のものと化してしまい、それを信じていたらオークションなどで戦うのは全くお呼びでなくなる。何しろロシアの金貨など、25ルーブル金貨や371/2ルーブル金貨が9000ドル見当だから、参考にも何もならないのである。1830年から45年の間の12ルーブル白金貨もまた、1万ドルがカタログ上の最高価格だから、市場価格等お話にならないのだ。 中国コインなどは地銀タイプだったものまで軒並み、未使用品だと1万円を超している。中華民国の貴州省――あの有名な自動車ダラーも、カタログでは極美品EXTRA FINEで800ドルでしかないが、オークションに出てくれば4000ドルや5000ドルになってしまう。浙江省の1898年から99年の7銭2分銀貨は、極美品で9900ドルとカタログにあるが、せられたら10万ドルに達するのではないか。
根強い人気を有するイギリスのコインは、グレードの良好なものを中心に、カタログ価格を置き去りにし、着実に値上がりを記録している。ヴィクトリアのヤング・ヘッドやゴティック、ジョージ4世やウィリアム4世などクラウン銀貨を中心に、変わらぬ強い人気を持ち続けているのだ。 もちろんイギリスのコインは、全面的に人気が高く、エドワード6世やエリザベス1世のクラウン銀貨を中心に金貨にも買い気配が濃厚である。日本のコレクターのレヴェルは、急速に向上を見ていると言えよう。このあたりもカタログ価格に影響されると、完全に入手の機会を逃すのである。
カタログの使い方としては、他との比較だとどのくらいの比率で珍品度が高いか、あるいは低いかという参考にするとよい。イギリスのヴィクトリアのヤングヘッドのクラウン銀貨では、極美品に限って1847年と44年(45年も)を比べてみると、1.67倍の違いが存在する。そうした計算のベースとなってくるのが、同じグレードでのカタログ評価からの算出方法だ。そうしたデータの使用方法が可能と考えてよい。 大体がカタログの価格に固執している人は、せっかく目の前にある逸品を逃してしまう公算が大きい。
こんなに高いのかと思い躊躇しているうちに、オークションでは競りから取残され、また店頭だと他の客に持ってゆかれるのである。 コインの場合はそれが気に入るか、そうでないかという2つに分れる。前者なら積極的に出るべきだし、そうでないなら見送ればよい。本当に素晴らしいと見込んだら、それこそ一期一会だと思って臨みたい。
いったん逃したらもう2度と目の前に現れない、という具合に考えればよいのだ。
イギリス ゴティッククラウン銀貨 1847年 ヴィクトリア女王
カタログ価格25万円が78万円で、15万円が62万円で落札された。
イギリス クラウン銀貨 1601年 エリザベス1世
中華民国・貴州省 7銭2分銀貨 1927年 自動車道路開通を記念した通称〈自動車ダラー〉
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